作家 戸板康二さんの ちょっといい話 その108回
10数年前、請求書が一向に来ないバーに行った奥野信太郎さんが、 「払って帰ろう」 というと、 「先生いつてもいいん
ですよ、第一、いくらぐらいあったか、忘れちゃったわ」 とマダムがいう。 ぼくも、そばにいた。 奥野さんは、「しかし、今
日は払って行きます。 ちょうど持ち合わせているから」 といった。 「そうですか」 「おいくらになるの」 マダムは帳面
も見ないで、 「6,835円になります」 「ほう、だが5円というのは半端だね」 「いつか先生、葉書を一枚、ここでお使い
になりましたのよ」

エカテリーナ宮殿の出口そばの露店商

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- 2007/11/06(火) 11:28:36|
- エカテリーナ宮殿
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作家 戸板康二さんの ちょっといい話 その107回
安部豊さんは、几帳面な人で、規律がやかましかった。 就業午前10時 終業午後5時と書いた大きな紙を貼っていた。
ある週、どういうわけか、毎日のように、電車が遅延して、安部さんは、3日続けて、20分ほど出社が遅れた。 4日目の
朝、また遅れて来た安部さんは筆をとると、 「午前10時」 「午後5時」 の下に、 「頃」 という字を書きこんだ。

エカテリーナ宮殿のシャンデリア

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- 2007/11/05(月) 10:44:38|
- エカテリーナ宮殿
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作家 戸板康二さんの ちょっといい話 その106回
日本演劇社が築地にあって、業務部長は、もと 「演芸画報」 にいた安部豊さんであった。 事大主義のところがあって、
肩書きのついている人には、無条件で敬意を表した。 終戦後の或る冬の日に、訪問客があった。 秘書らしい青年を同
伴した老紳士である。 脇の机にすわっていたぼくは、一見して、それが、前の内閣総理大臣である芦田均さんとわかっ
た。 安倍さんは人見知りするたちで、自分の目の高さに板囲いをし、入室して来た人物をそこからのぞいて、知人だと伸
び上って挨拶し、知らない人だと頭を垂れて、素知らぬ顔をするのだ。 その時、安倍さんは、芦田さんということがわから
なかった。暖房もろくにない時代だったので、芦田さんも同行の人も、外套を着たままである。仕事をしていたぼくも、同僚
も、安倍さんも、外套を着ていた。 芦田さんは、社長の久保田万太郎さんに会いに来たのだが、見まわして一番年配の
安部さんに近づき、 「久保田さんは、おいでですか」 といった。 当時この社では、社長を 「先生」 と呼んでいた。 大
抵の来客が先生というのに、この客は 「久保田さん」 といったのに対して、安部さんは不満だったらしい。 仏頂面で 「
あなたは?」 と尋ねた。 芦田さんが名刺を紙入れから出して渡すと、安倍さんは名状しがたい顔で、狼狽した。 そして、
立ち上って、あわてて外套をぬぐと、部屋中の人に向って、 「みんな外套をぬぎなさい」

エカテリーナ宮殿の照明

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- 2007/11/03(土) 13:42:59|
- エカテリーナ宮殿
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作家 戸板康二さんの ちょっといい話 その105回
田辺茂一さんが、病院に見舞に行った。これならいいと思って、更科の御前そばを持参した。 ちょうど病室にはいった時
に、院長の回診があったので、隅の椅子で待っていたが、回診がおわってゾロゾロ出て行く一群の最後にいたインターン
に、念のため、 「そばは、病人にどうでしょう」 と尋ねると 「更科のなら大丈夫ですよ」 と答えた。 田辺さんは、腹の
中で考えた。 「藪が更科を賞(ほ)めたのは、はじめてだ」

バルト海の早朝

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- 2007/11/02(金) 10:41:02|
- 寄港地サンクトペテルブルグ
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作家 戸板康二さんの ちょっといい話 その104回
遠藤周作さんが、秘書に車を運転してもらっていた時、スピード違反でつかまった時の会話をあらかじめ考えていたら、そ
れを利用する事態になった。 遠藤さんが散々叱って、 「あれほど注意しておいたのに、どうしたのだ」 というと、警察
官が 「まァまァ」 となだめ、 「ほんとに、こわい社長さんだね」 と同情した。 しかし、罰金は、とられた。

サンクトペテルブルグ港近くの、鳥たちの楽園(3)

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- 2007/11/01(木) 10:17:26|
- 寄港地サンクトペテルブルグ
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